加藤仁『定年後 –豊かに生きるための知恵』(2007年、岩波新書)
定年とは、不可思議な制度であるとも言える。定年は退職する決まりになっている一定の年齢のことであるが、この定年制度が認められている国はさほど多くはない。アメリカをはじめカナダ、ニュージーランド、オーストラリアなどでは「年齢差別禁止法」により、事業主は年齢による差別行為は禁止されている。会社を辞めるかどうかの判断は、あくまで個人の裁量になのである。一方で、会社はその人物が求める能力に満たなければ、レイオフする権利がある。同じ企業といっても、欧米のジョブ・ディスクリプション型と日本のレイバー・ユニオン型では、会社と個人の関係性は大きく異なる。 もうひとつの典型的な例が終身雇用制である。日本では、正社員には終身雇用制に守られる形で、定年に達するまで働き続けるある種の権利が与えられている。それが1980年代に、同質的、均質的と揶揄されつつも、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」(エズラ・ヴォーゲル)と世界から恐れられた日本企業のパワーを生み出す原動力のひとつになったのも事実であろう。 しかし、この強固な定年制度のおかげで、日本のサラリーマンたちは、来たるべき定

稲葉陽二『ソーシャル・キャピタル入門 孤立から絆へ』(2011年、中公新書)
本書はその名の通り、ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の入門書である。ソーシャル・キャピタルとは、「人々の間の協調的な行動を促す「信頼」「互酬性の規範」「ネットワーク(絆)」のことを指す。 これは、道路や橋、公共施設などのハード・インフラとは異なり目に見えないソフト・インフラであるが、高齢化が進み、思いがけない地震や天災も増加する中で、改めて地域住民同士の結びつきの重要性が浮上してきている。 本書では、この社会関係資本に関するさまざまな解釈と、関係資本を強化、もしくは弱める要素は何か、その因果関係を研究した文献を多く紹介している。 例えば、「所得格差が社会関係資本を毀損し、その結果、健康状態に影響を与える」、「社会関係資本は主観的健康と一般的信頼や地域の格差の指標であるジニ係数とも関係している」などの説である。 また社会関係資本は、大きく異質な者同士を結びつける「ブリッジング(橋渡し型)な社会関係資本」と同質な者同士が結びつく「ボンディング(結束型)な社会関係資本」に区分されるそうだ。前者は、社会全般に対する信頼や互酬性を高める効果を果たし、

河合雅司『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』(2017年、講談社現代新書)
本書は、現在から約50年後の2065年にわたって今後の日本社会に起こり得る事象を年表形式で約20項目にわたって解説している。 予測の内容の殆どは悲観的な事項である。「国立大学が倒産の危機に(2018年)」「介護離職が大量発生する(2021年)」「ついに東京都も人口減少に(2015年)」「輸血用血液が不足する(2027年)」「自治体の半数が消滅の危機に(2040年)」「外国人が無人の国土を占領する(2065年〜)」など。ここで描かれている事項はすでに現在でも顕在化しているものが多いが、具体的な年と共に記されているところが、本書に一定のリアリティを与えている。 さまざまな未来予測の中で、予測確実性が高いものが「将来人口予測」である。日本では、「国立社会保障・人口問題研究所」が将来人口推計を行なっているが、官公庁発表の白書やレポートにおける将来予測は、ここでの推計人口を基礎データとして用いることが多い。日本の将来は人口減少と少子高齢化が確実に進むため、自ずとと本書で語られる事項は、悲観的にならざるを得ない。 本書において語られる課題に対する解決アイデア
