宮本太郎『共生保障<支え合い>の戦略』(2017年、岩波新書)
本書は、長く福祉国家のあり方や準市場の可能性について研究を重ねてきた宮本太郎中央大教授による新たな社会保障の可能性を「共生保障」というキーワードを軸に語られたものである。 「共生」という言葉は、安倍政権下でも平成28年に閣議決定された「一億総活躍プラン」の中にも「地域共生社会の実現」と表現されているように、近年良く耳にする言葉でもある。 本書において筆者は、「地域で人々が支え合うことを困難にしている事態をいかに打開し、共生を可能にする社会保障をどう設計するか」を実現するための制度構想を「共生保障」と呼び、その方向性を示そうとしている。 具体的な共生社会の構築の方向軸として示されているのは、「ユニバーサル就労」「共生型ケア」「共生のための地域型居住」「補完型所得保障」などである。 「ユニバーサル就労」では、より柔軟な形の就労コーディネイトの必要性やベーシックワーク(ベーシックインカムの仕事バージョン)の可能性が言及される。 「共生型ケア」では、当事者同士の支え合いから、支援付き就労に繋げていく試みが、「共生のための地域型居住」では、ナガヤタワー、シ

赤瀬川原平『老人力』(1998年、筑摩書房)
赤瀬川原平は、現代美術家としてキャリアをスタートさせ、その後、尾辻克彦名で芥川賞を受賞。それ以降は、ふたつの名前を使い分けつつ、数多くの小説、エッセイ、国内外美術・芸術に関わる論考を残した。2014年に残念ながらお亡くなりになったが、おそらく本人は、最後まで自分は現代美術家という強い自覚を持っておられたに違いない。 赤瀬川は、彼の存在そのものが一貫して優れたシュールレアリストであった。しかし、そのあり方はマンレイやブルトン的ではなく、日常生活の中に異次元のほころびや小宇宙を見いだす、いわゆる「お茶の間シュールレアリスト」とでも呼ぶべき存在であった。おそらくこれは世界中で誰も成し遂げていない極めて特異的なポジションではなかったか。日本のシュールレアリストの父、赤瀬川の『千円札裁判』の擁護者でもあった滝口修造が、彼の活動を見続けていたならば、どのような感想を持ったか知りたいところである。 本書『老人力』も、「お茶の間シュールレアリスト」赤瀬川の本領が発揮された一冊である。老人力という言葉は1998年の流行語大賞の候補にもなり、おそらく数ある彼の著作中

若林靖永・樋口恵子編『2050年超高齢社会のコミュニティ構想』(2015年、岩波書店)
本書は、公益財団生協総合研究所による「2050研究会」の報告書をとりまとめたものである。研究会のテーマは、「今後、超高齢・少子・人口減少、単身社会にが進む2050年の地域コミュニティにおいて、生活協同組合が果たすことが出来る機能・役割は何であるか」というものである。 その解答の柱として挙げられているのが「集いの館」構想。具体的に、それはどのようなものかと言うと、 「全国1万5千の小学校区単位に元気な高齢者が運営主体となる「集いの館」を展開する。そこにはコンビニ業態(30坪)と、さまざまな暮らしの相談に応える「よろず相談デスク」、多世代が集うことにできる「フリースペース」(60坪)で構成される。元気な高齢者がチームで店を運営し、あらゆる世代の困りゴトを助ける「地域プラットフォーム」をつくろう」というものである。 この結論を元に、参加した委員が各論を本書の中で展開し、まとめとして編者の2名に加えて東大名誉教授神野直彦氏による座談会が掲載されている。 このコミュニティの姿は、今後志向されていくことになるであろう「地域まるごと包括ケア」の姿とも似ている。
