菊池まゆみ『「藤里方式」が止まらない』(2015年、萌書房)
秋田県北部にある藤里町、人口3600人、高齢化率42%の小さな町、藤里町が一気に全国的に有名になったのは、その町の福祉協議会が、引きこもりの就労支援にいち早く取り組み、一定の成果を収めたからである。
社協として就労支援訓練の場として飲食店「こみっと」を経営し、引きこもりの若者にそば打ちを指導する。さらには、そこで作られた地元の白神まいたけ入りのキッシュを通信販売する。そんなユニークなケースが注目を集め、個々の活動は、NHK「クローズアップ現代」や週刊ダイヤモンドをはじめ、多くのメディアで取り上げられた。その活動は『引きこもり、町おこしに発つ』(秋田魁新報社)としても書籍でもまとめられている。
本書『「藤里方式」が止まらない』は、前著に続く第二弾として企画され執筆されたものである。(出版順から見ても)しかし、上記「藤里方式」方式のことを理解できていない方が本書を読むと、はっきり申し上げて本書の内容は全く理解できないのではないか。
私もそのひとりだった。藤里町社会福祉協議会の活動内容は、宮本太郎『共生保障』(2017年、岩波新書)の中で紹介されており、それに興味を持って本書を購入してみたのだが、書かれているのは引きこもりの就労支援が中心では無く、その後に起こったこと、その周辺での出来事が中心である。
記載されている内容の時間軸もバラバラなので、本書を読んでこの社協の活動を体系的に理解しようとするのは、あきらめた方が良いだろう。しかし、これは著者の責任というよりは編集の責任である。著者はある意味でライターとしては素人なのだから、それを読者にわかりやすく再構成する責は元々出版社にある。
書籍の構成としては、やや辛口な批評になってしまったものの、著者の社協での活動に対する強く熱い思いだけは本書を読んで伝わってくる。
町おこしを成功に導くためには、「わかもん・よそもん・ばかもん」が必要であると良く言われる。本書の作者菊池まゆみさんが、わかもん、よそもんかどうかは分からないが、明らかにばかもん、だろう。ただし、これは最上級の褒め言葉である。