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上野千鶴子『40才からの老いの探検学』(1990年、三省堂)

上野千鶴子のベストセラー『おひとりさまの老後』の発売は2007年。この年に日本人の高齢化率は21%を越え、当時「おひとりさま」は多くの人々の関心を集めた。

 本書『40才からの老いの探検学』は、それに先立つ17年前、彼女による(おそらく)初めての高齢者をテーマとした書籍である。発売当時(1990年)の高齢化率はわずか12.1%。その後の「各種高齢化問題」は、介護問題を除けば、さほど表面化していなかった当時、このテーマに着目したあたり、彼女には先見の明があった。

 本書では、各分野の識者との対談を通じて日本における高齢社会の未来像を描き出そうとしている。対談のテーマと相手は以下の通りである。(肩書きはいずれも出版当時のもの)

・「団塊シルバーの近未来」関沢英彦(博報堂生活総合研究所取締役・主席研究員)

・「濡れ落ち葉族の傾向と対策」樋口恵子(評論家)

・「老年文学の可能性」森遥子(作家)

・「アメリカの老後・日本の老後」エミリー・エイベル(カリフォルニア大学・女性学専攻)

・「シングルの老後」吉廣起代子(フリーライター)

・「老婚のススメ」和多田峯一(「無限の会」主催)

・「福祉社会−北欧の老人像」大熊一夫(朝日新聞記者)

・「シニアハウス・ライフ」清水好子(関西大学教授)

 テーマは消費、夫婦関係、日米比較、単身女性、シニア婚、北欧、住まい方など幅広い。

 第1章の関沢英彦との対談「団塊シルバーの近未来」は、同じ団塊世代同士が、自らが高齢期を迎えた時にはどのような社会になっているかを語る。

 関沢は「ベビーブーム世代は、世代の節目で新しい現象にぶち当たっては社会を変えてきたから、次の世代は老いについてもその変化の結果の果実があれば、それを食べられるかということはありそうですね」と、団塊世代らしく楽観的に語り、上野も「「平凡パンチ」で育ってきたわれわれは、「老人パンチ」を必要とするような新しい老人として、老人イメージを塗りかえるだろうという同世代への共感は、私も共有している」と応える。現在から振り返れば、結局そんなことは無かったわけではあるが。

 対談内容の個別内容は、現在から振り返ってみると当たっている部分もあり、なかなか面白い。

「団塊世代移行は役職に就けないポストレスエイジが増えていくことにより、会社に忠誠を誓わず脱社縁を目指す層が増えてくるのではないか」(上野)「階層社会は一番高齢者から最初に顕在化するのは確かだと思う。」(関沢)「宗教も大きなマーケットになると思いますね。」(上野)

 このあたりは、結構当たっているのではないか。一方「健康な老人層が相当出てきて、基本的には定年が七〇歳になっていくでしょう。」(関沢)これは、年金支給開始年齢の引き上げによって引き上げられつつあるものの、健康老人の増加という利用よりはむしろ、社会保障費増大対応といったほうが良いだろう。

 第2章は「高齢化社会をよくする女性の会」を率い、フェミニスト実践活動家として日本の男たちを、“濡れ落ち葉”族、“粗大ゴミ”“産業廃棄物”などと刺激的に鼓舞してきた両者が、夫婦のあり方、女性と介護の関係について語る。この時代で既に樋口の口から、現在の地域包括ケア、小規模多機能的施設の必要性についての発言があったことが驚きであった。

 これ以外の対談でも、現在においても参考となるインサイトが数多く盛り込まれている。1990年時点の“老いのフィールド”を上野千鶴子が果敢にフィールドワーク(探検)した書物。現在は絶版になっているが、機会があればご一読をおすすめしたい。

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