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若林靖永・樋口恵子編『2050年超高齢社会のコミュニティ構想』(2015年、岩波書店)


本書は、公益財団生協総合研究所による「2050研究会」の報告書をとりまとめたものである。研究会のテーマは、「今後、超高齢・少子・人口減少、単身社会にが進む2050年の地域コミュニティにおいて、生活協同組合が果たすことが出来る機能・役割は何であるか」というものである。

 その解答の柱として挙げられているのが「集いの館」構想。具体的に、それはどのようなものかと言うと、

 「全国1万5千の小学校区単位に元気な高齢者が運営主体となる「集いの館」を展開する。そこにはコンビニ業態(30坪)と、さまざまな暮らしの相談に応える「よろず相談デスク」、多世代が集うことにできる「フリースペース」(60坪)で構成される。元気な高齢者がチームで店を運営し、あらゆる世代の困りゴトを助ける「地域プラットフォーム」をつくろう」というものである。

 この結論を元に、参加した委員が各論を本書の中で展開し、まとめとして編者の2名に加えて東大名誉教授神野直彦氏による座談会が掲載されている。

 このコミュニティの姿は、今後志向されていくことになるであろう「地域まるごと包括ケア」の姿とも似ている。ただ地域包括ケアは中学校区を単位として考えているのに対して、本書では小学校区が主張されている。

 各委員の内容をそれぞれまとめると、若林靖永氏(京都大学教授)は提言の詳細内容。樋口恵子氏(「高齢社会を良くする女性の会」理事長)は主に介護と女性の視点から2050年のあるべき社会について語る。前田展弘氏(ニッセイ基礎研究所主任研究員)は現在行われている1つの地域モデルUR「柏の葉」の説明。宮本みち子氏(放送大学副学長)は家族視点からの今後の社会のあり方について。松田妙子氏(NPO法人「せたがや子育てネット」代表理事)は、子育て視点からの「集いの館」イメージ。白鳥和生氏(日経新聞社調査部次長)は、企業事例を交えた地域コミュニティビジネスについて語っている。

 最も刺激的であったのが、最後の鼎談である。編者二名の未来社会におけるさまざまな困難性の視点に対し、神野直彦氏の意見は全く正反対。人口停止状態になることで人間的な生活(質的充実)が可能となる条件が整った。今後は市場、政府ではなく社会(インフォーマル・セクター)の強化が重要であると語る。

ここは生活協同組合の重要性を語る編者とも共通だが、神野氏はさらにそれは単一組織ではなく、複数のボランタリーセクターが連帯し、「コモンズ的共同体」を形成することが重要であると語る。ある種のちゃぶ台返しではあるが、提言内容を更に一段上のステージから語ることで、逆に内容の社会ポジションがはっきりするという結果になっている。

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