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古宮昇『共感的傾聴術 精神分析的に“聴く”力を高める』(2014年、誠信書房)

 本書が対象とする心理技法はロジャースの来談者中心療法である。ロジャースは、カウンセラーの態度条件に、(1)自己一致、(2)無条件の肯定的関心、(3)共感的理解が重要と指摘する。クライアントが表現できない感情を共感的に理解し、カウンセラーが言語化し、明確にすることが、来談者中心療法のカギである。

 本書は、この一見、簡単そうに見えるこの技法を臨床実践で使用する際に潜む困難性と奥深さを語っている。本書を読んで印象に残ったポイントは次の点である。

  • 共感するということは、ただ単純に相手の語る言葉をおうむ返しに返すことではない。クライエントの語る言葉の中に潜んでいる深層心理やメッセージ、葛藤を読みとりつつ、相手自身がより良き自己分析が可能となるように促していくための手法が共感的傾聴である。

  • フロイトが唱えた精神分析理論とロジャースの唱えた来談者中心療法は、一般的には異なるものとして理解されているが、実は「来談者が表現している心のあり方を共感的に理解することに徹する」という点においては共通している。

  • 共感するポイントを間違うと、クライアントからの信頼が得られず、間違ったカウンセリング結果を招く可能性がある。カウンセラー自身が自己覚知なくして正しい共感を伴ったカウンセリングを行うことは出来ない。

 本書の後半では、前半で語られた理論をベースに実際のカウンセリングのケーススタディが語られ、それぞれのカウンセリング・プロセスの講評が収められている。活字だけだと、カウンセリングの現場で語られた言葉(音声)の微妙なニュアンスが、わかりかねることもあり、ややもどかしい感じがしないでもないが、意図しようとすることはよく伝わってくる。

 カウンセリングが儀礼的になり、クライアントからの信頼が得られなくてもダメであり、一方でクライアントに肩入れしすぎて、結果として感情の転移を起こしてはならない。その意味で、心理的制御を行いつつ信頼を得るという極めて難しい技術が傾聴術の中に存在している。

 この技法は、社会福祉の現場の中でも十分に活用できるのではないかと考えられる。例えば家族からDVを受けている女性に対して、社会福祉からの手を差し伸べていく場合、彼女ら自身が既に心に大きな傷を抱えている場合も多く、心の扉を開いてくれない可能性も高い。そのようなクライアントの心の傷をいかに理解しているか、彼女らの心の傷に寄り添おうとする場合には、この技法は有効に機能すると考えられる。

 社会福祉の援助を求めている人たちの多くは、社会的にも傷ついた人々が多い。彼らと向き合う中で、この共感的傾聴の手法を正しく使用することは、彼らの傷をきちんと癒していくための一助にもなるだろう。

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