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吉本佳生『L70を狙え! 70歳以上の女性が消費の主役になる』(2014年、日本経済新聞出版社)


 L70とは70代女性のことである。70歳以上の女性が消費の主役になるという本書のサブタイトル主張を本文から要約すると以下の通りになる。

・人口減少社会の中、70歳以上の人口はこれから大幅に増える

・女性の方が寿命が長いため、70歳以上は女性が中心(L70)になる

・70代の8割は健康で、悩みもストレスも少ないひとたちだ

・L70の中には他の人たちよりも“モノやサービスを高く買ってくれる”人が多い

・今後、L70は次第に高学歴の人が増えてくる。高学歴化がすすむにつれ旅行、趣味・娯楽、教養・学習に対する消費が伸びるはずだ。

 このような主張を筆者は本書の中で、さまざまな商品・サービス・ジャンル別に解説を加えていくのである。主張を支える根拠は主に総務省「家計調査年報」と「社会生活基本調査」データである。本書で説明されたデータは多岐に渡り、そこから読み取れるシニア消費の大きな傾向を理解するには良いかと思う。しかしこれだけで「70歳以上の女性が消費の主役になる」ことを全面的に信じろと言われても、それには残念ながら無理がある。

 本書の高齢女性の分析には、老年心理学や老年医学も全く考慮されておらず、コーホート(世代)効果、時代効果などの検討もない。エコノミスト的アプローチだとしてもその分析方法はやや乱暴ではないか。そこが「大きな傾向値を理解するには」という意味である。

 本書を読んで感じたのは、筆者には申し訳ないが、実は結論というかL70というテーマが先にあり、そのためにさまざまなデータを引っ張り出し説明しているようにも思えてくる。

 引用されているデータは、「平均」が多く用いられているが、高齢期は格差を示すジニ係数が高くなるのは良く知られていることであり、平均で高齢者を把握しようとするのは危険である。一部の富裕層のデータに引っ張られて、平均値は上がる傾向があるからである。本当は階層分布で理解すべきであるし、それが無理だとしても中央値くらいは把握しておきたい。

 65歳以上単独高齢女性の相対的貧困率は44.6%(2012年・国立社会保障・人口問題研究所阿部彩氏「高齢者の貧困と孤立」資料より)に達している。この事実を理解した上での主張であるのか甚だ疑問でもある。ここで主張されている事項は、一部の富裕層高齢者には適応可能であろうと思うが、その割合はぜいぜい2〜3割ではないか。多面的なシニアの実態を理解した提言であって欲しい。

 一方で、本書の後半の主張のひとつ、割引戦略だけがシニア戦略では無い、という意見には賛成である。筆者が本書を通じて語るとおり、高齢者に対するアプローチの創意工夫はまだまだ不足している。高齢者個性に消費を促すための商品・サービスの効用を如何に伝えるか、というアプローチはもっと多面的になされていくべきであろう。

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