稲葉陽二『ソーシャル・キャピタル入門 孤立から絆へ』(2011年、中公新書)
本書はその名の通り、ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の入門書である。ソーシャル・キャピタルとは、「人々の間の協調的な行動を促す「信頼」「互酬性の規範」「ネットワーク(絆)」のことを指す。
これは、道路や橋、公共施設などのハード・インフラとは異なり目に見えないソフト・インフラであるが、高齢化が進み、思いがけない地震や天災も増加する中で、改めて地域住民同士の結びつきの重要性が浮上してきている。
本書では、この社会関係資本に関するさまざまな解釈と、関係資本を強化、もしくは弱める要素は何か、その因果関係を研究した文献を多く紹介している。
例えば、「所得格差が社会関係資本を毀損し、その結果、健康状態に影響を与える」、「社会関係資本は主観的健康と一般的信頼や地域の格差の指標であるジニ係数とも関係している」などの説である。
また社会関係資本は、大きく異質な者同士を結びつける「ブリッジング(橋渡し型)な社会関係資本」と同質な者同士が結びつく「ボンディング(結束型)な社会関係資本」に区分されるそうだ。前者は、社会全般に対する信頼や互酬性を高める効果を果たし、後者は特定の人や組織に対する信頼や互酬性を高める効果を示す。
一般に、社会関係資本の新たな可能性が語られる場合、地縁や企業縁などを中心とするボンディング型ではなく、NPO法人などのブリッジング型を中心に可能性が語られる場合が多いかと思う。
しかし、本書によると「NPO法人と地縁団体(自治会、町内会、老人会、自主防災組織、消防団員、民生委員、社会福祉協議会ボランティア)では、地縁団体のほうが、NPOよりも治安、健康、教育の面でプラスの効果を持つ」といった意見も紹介されており、今後の超高齢地域社会における社会関係資本のあり方を考える上でも、既存組織の活性化も極めて重要であることに気づかされた。